生活の身近な場所にいた生物



かわきた第223号(2009年11月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
生活の身近な場所にいた生物

かわさき自然調査団 岩田臣生

半世紀程前、川崎市北部ではまだ舗装されている道路は殆ど無く、二ヶ領用水がインフラストラクチャーとして機能していた頃は、水辺が生き物で賑わっていたばかりではなく、住宅の周りでも生き物が溢れていました。
マサキの生垣にいたハエトリグモの仲間はケンカをさせて遊ぶ玩具でした。その頃はクモの名前も知らず、その遊びを何と呼んでいたかも覚えていませんが、小学校で流行っていました。その後いつの間にか忘れてしまったクモで、今では種名を調べることもできませんが、1920年代から1960年代まで、横浜から川崎の一部の地域で流行っていた「ほんち」という遊びで、ハエトリグモの仲間が使われていたらしいことが分かりました。
そんな生垣や庭、家の外壁などにはアマガエルがいました。雨が降りそうになるとケロケロとないて知らせてくれる可愛い存在でした。最近インターネットで調べたら、「カエルがなくと雨が降る」というのは言い伝えとして扱われていました。いつの間にか、家の周囲にアマガエルがいなくなって、普通に経験できる風物ではなくなっていたのです。
 家から少し離れた用水路や田んぼ、池沼などにはトノサマガエルがいました。イボイボのあるガマガエルは気持ち悪いし、毒があるから触るなと教えられていましたので、遊びにつながるカエルはトノサマガエルでした。もっとも、関東にはトノサマガエルはいないこと、これはトウキョウダルマガエルというカエルであることを知ったのは大人になってからでした。しかも、同時に、川崎からは消えたことも教えられました。 トウキョウダルマガエルは、高度経済成長を背景とする都市化の過程で棲息地が破壊され、田んぼが減少し、水質が汚染されて、その数を減らし、神奈川県RDB2006年度版では絶滅危惧U類とされ、『三浦半島や川崎市では既に絶滅した可能性が高い』と記されています。
そのトウキョウダルマガエルが川崎市内に棲息しているという情報を得たのは最近のことです。どこかから持ち込まれたものなのか、周辺のどこかで辛うじて生きていたものか、まだ確かめられてはいません。しかし、何人かの関係者の話を聞いていると川崎に生き残っていたもののような気がしてきました。
都市化は私たちの生活環境を変化させ、快適な空間を形成してきましたが、同時に失ってきたものがいることに更めて気づかされている昨今です。それも「いつの間にか」、「気がついた時にはいない」のです。今、身近なところで普通の自然を見つめていくことの大切さを感じています。

トウキョウダルマガエル(撮影:江崎)

アズマヒキガエル(別名ガマガエル)

この文章は、かわきた第223号 2009年11月発行に掲載されたものです。
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