春にだけ現れるツマキチョウ



かわきた第226号(2010年5月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
春にだけ現れるツマキチョウ

かわさき自然調査団 岩田臣生

 1年間に1回だけ卵から成虫へという成長のサイクルを行うチョウを年1化のチョウといいます。3回のサイクルがあるものは年3化ということになります。これは、そのまま年何回成虫が出現するかにつながります。また、幼虫が食べる植物を、そのチョウの食草といいます。年何回も出現するチョウは食草の幅が広く、適応能力が高いことになります。
 さて、年1化、里山の春に出現するチョウにツマキチョウがいます。産卵は普通、食草となるヤマハタザオ、タネツケバナ、イヌガラシ、ナズナなどのアブラナ科の植物に行われます。卵は10日ほどで孵化し、幼虫は食草の花や果実、時には葉を食べて3週間ほどで蛹になります。この蛹は1年、時には2〜3年経った春に羽化します。一生の殆どを蛹で過ごしているチョウです。羽化は必ず春に限られること、2年も、3年も蛹で過ごすものもあることなどは非常に興味深いことです。名前の由来はオスの前翅の先端部分、褄(つま)が黄色であることによるものです。
 生田緑地では4月の谷戸で出会うことができます。飛び方がヘラヘラと頼りなげでいて、谷戸の上から下へ、下から上へと飛び続け、なかなか止まりません。止まったら写真を撮ろうと追いかけ続けて、諦めたことが何度もあります。そんなツマキチョウが、湿地に残しておいたヨシを刈り取る作業をしていた時に現れて、折れたヨシの枯れ茎に止まりました。しかも、なかなか飛び立とうとしません。こんなことは初めてのことで、慌ててカメラを取り出し、シャッターを切りました。緊張して手が震えていました。
私たちは1年に何回も草刈りをしますが、この草刈りが蛹で過ごしているツマキチョウにダメージを与えているという意見を頂戴し、谷戸からツマキチョウが消えてしまうのではないかと心配したことがありました。ですから、春になって、ツマキチョウに出会えると、無事でいてくれたかと胸を撫で下ろすのです。一体どんなところで蛹になっているのでしょうか。探したことはありませんが、いつも気にしながら草刈りをしています。下の田圃周辺に広がっているショカツサイは多摩丘陵の在来の植物ではないのですが、アブラナ科の植物であるということから、敢えて刈らずに放置しています。ツマキチョウが生き続けて、毎年、春を告げるように谷戸に姿を見せてほしいと願うからです。

この文章は、かわきた第226号 2010年5月発行に掲載されたものです。
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