大都市の身近な自然〜セミ



かわきた第228号(2010年9月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
大都市の身近な自然〜セミ

かわさき自然調査団 岩田臣生

大都市にとって自然はどんな存在だろうか。
日々懸命に働いているサラリーマンは自然を意識することなどあるのだろうか。一日の生活の中で、何かに自然を感じることがあるのだろうか。暑い陽光を避けるようにアスファルトの道を歩いている時に、セミが鳴いていることに気がついているだろうか。
子どもの頃、夏休みにセミとりをしたことが無い人もいるらしいということを最近知った。誰もが経験していると思っていたので、アブラゼミ、ニイニイゼミ、ミンミンゼミ、ヒグラシ、ツクツクボウシを知らない人はいないと思っていたが、セミは身近な生き物ではなくなってしまったのだろうか。 かわさき自然調査団が行ってきた「皆でできる自然調査」のセミ調査の結果から、川崎では、クマゼミ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、ニイニイゼミ、ヒグラシ、ツクツクボウシ、ハルゼミの7種のセミが棲息していることが分かった。
どうやら、アブラゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシ、ニイニイゼミ、ヒグラシの5種は半世紀にわたる都市化の過程でもしぶとく生きていたようである。
 アブラゼミ、ミンミンゼミはともかく、ツクツクボウシとヒグラシは森林性で、樹林がなければ棲息できない。ニイニイゼミは平地の森林や市街地の緑地などに広く棲息するが、幼虫の棲息には湿気を多く含んだ土壌が関係している。アブラゼミに比べて環境適応性が低いこれら3種も市街地の中に残った小さな樹林や住宅の庭などで生きているのだろう。
 2008年のヌケガラ調査の結果、川崎区日進町の川崎駅から直ぐ近くのルフロン公園でヒグラシのヌケガラが採取された。駐車場の上に造られた公園の樹林である。土の中に幼虫が紛れ込んでいたものと推察されるが、見つかった合計4個のヌケガラが次の世代につながっている可能性もある。残念ながら鳴き声は確認されなかったようだが、ここでセミ調査をしているボランティアは楽しい夢を見ることになった。
 繁華街や工場地帯で聞き慣れない声を聞いて不思議に感じた人はいないだろうか。西の方からクマゼミが入ってきたのだ。信じられないという人もいると思うが、クマゼミは年々増えているようで、7区の全てで鳴き声を聞くことができる。但し、かなり点的に分散している。人が関わって広がったということを想像させる広がり方だ。川崎区の緑地帯の中にはクマゼミ全盛のところもある。
 一方、ハルゼミが辛うじて生き残っていて、年によってとか、シーズン中に1回だけとか、頻度は極めて低いのだが確認されている。 ハルゼミは丘陵地のアカマツ林に棲息する生物で、アカマツ林とともに消えようとしている。アカマツ保護のために農薬を使っているゴルフ場の松林では棲息できない。神奈川県下でもアカマツ林は減少しており、ハルゼミはレッドリストの要注意種になっている。川崎では麻生区、多摩区の数ヶ所のみだが鳴き声が確認されているのだ。 川崎でもセミは身近な生物だ。道端の樹木に目をやってみてほしい。前夜に羽化したセミのヌケガラが見つかるかも知れない。見る気持ちさえ忘れなければ、自然はいつでも身近にあることを感じられるだろう。

この文章は、かわきた第228号 2010年9月発行に掲載されたものです。
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