かわきた第240号(2012年9月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
谷戸のカエル シュレーゲルアオガエル

かわさき自然調査団 岩田臣生



 日本には43種類のカエルが棲息していますが、川崎には、ヒキガエル科のアズマヒキガエル、アマガエル科のニホンアマガエル、アカガエル科のニホンアカガエル、ヤマアカガエル、トウキョウダルマガエル、ツチガエル、ウシガエルの5種、アオガエル科のシュレーゲルアオガエルの計8種が棲息しています。[北川 徹, 1987] 今回は、この中から、谷戸の固有種といわれるシュレーゲルアオガエルをご紹介し、里山の自然について考えてみます。
 シュレーゲルアオガエルは、神奈川県では要注意種に指定されています。里山の谷戸の水辺と雑木林の両方が無いと生きていかれない生物です。都市化は谷戸の田圃を畑や宅地に変えていき、水辺は消える運命にあります。
 シュレーゲルアオガエルは、春になると、雑木林から水辺に出てきて、交尾し、産卵します。
 産卵は、田圃の畦などの土の凹みや田起こしによってできた土塊の下など、様々な自然の穴を利用して行われ、その卵は白い泡に包まれています。一つの卵塊の大きさは直径5〜10cmで、その中に200〜300個の卵が入っています。卵塊調査はしていませんが、生田緑地の谷戸では毎年20個ほどの卵塊が見られます。
 孵化したシュレーゲルアオガエルの幼生(オタマジャクシ)は、雨によって溶け出した泡と一緒に水中へ泳ぎだします。ですから、土でつくられた畦はシュレーゲルアオガエルの産卵には最適な場所なのです。このためか、この時期、シマヘビやカルガモが田圃の中を泳ぎながら畦を突いている場面をよく見かけます。
 田圃では代掻きの前からオタマジャクシが泳ぎ出していますので、手網で掬えるだけ掬ってから代掻きを行っています。
 手足の生えたシュレーゲルアオガエルの幼体は7〜8月には上陸し、周辺の草地で小昆虫などを食べて体力をつけます。そして、雑木林に移動すると考えています。この移動は時に集団で行われ、驚かされることがあります。
 シュレーゲルアオガエルの繁殖は十分な水辺があれば一気に個体数を増やします。でも翌年、水辺に戻ってくる個体数は少なくなっています。その減った分が、爬虫類や、鳥類や、哺乳類の棲息を支えることに役立っているのだと思います。シュレーゲルアオガエルは谷戸の生態系における優占種なのです。
 里山の自然生態系のキーストーン種を直接管理することはできませんが、優占種の繁殖のための環境づくりは可能です。そして、新たなキーストーン種の棲息を可能にする土台をつくれると思います。私たちが谷戸に再生した田圃や水辺は、こんな目的も持っています。

この文章は、かわきた第240号 2012年9月発行に掲載されたものです。
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