かわきた第242号(2013年1月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
川崎で発見されたタマノカンアオイ

かわさき自然調査団 岩田臣生


タマノカンアオイ(4〜5月)


 川崎市内の雑木林で調査をしたり、下草刈りをしていると、必ずと言っていいほど、タマノカンアオイに出会います。丘陵地の北向き斜面に多いのですが、その他の場所でも、アズマネザサの茂みの中など、思いもかけない場所に大きな株があったりして驚かされることがあります。
 タマノカンアオイはウマノスズクサ科カンアオイ属の常緑の多年草です。
 花は4〜5月に咲きますが、葉の根元に落葉に埋もれるように咲きますので、タマノカンアオイについて知らなければ気がつかずに通り過ぎてしまいます。
 花には花弁がありませんが、微かな匂いでキノコバエの仲間を寄せて受粉していると考えられています。また、種子はアリが運んでいて、アリ散布植物と呼ばれる植物の一つです。
 このタマノカンアオイは、高名な植物学者である牧野富太郎先生が1931年に川崎市の稲田登戸で発見し、新種として記録されたものです。タイプ標本原産地が川崎である植物は他に知りません。
 自生地は関東地方西南部に限られています。川崎市内に限られるものではありませんが地域固有種と言えます。
 また、環境省レッドリストでは絶滅危惧U類とされ、神奈川県レッドデータ生物調査報告書2006においても絶滅危惧U類に指定されています。その理由は大規模な宅地造成によって生育地が失われ、公園緑地として保全されている場所に生育が限られると判断されたためです。タイプ標本原産地と思われる生田緑地の中では普通に見られます。
 ところで、川崎に自生するカンアオイ属はタマノカンアオイの他にカントウカンアオイ(カンアオイともいう。)があります。
 カントウカンアオイは麻生区の一部に点々と自生しているようですが、タマノカンアオイと混在することはなく、分布域を分けているようです。
 カントウカンアオイは10〜11月に咲くので、川崎市内であれば開花時期で容易に判別できますが、正しくは次のような違いで見分けます。
花柱の上部は2裂せず、強く曲がってその上に柱頭があるものが、タマノカンアオイです。
花柱の上部が2裂し、その基部に柱頭がある。また、葉身に光沢がなく、基部は両側に耳状に張り出さない。そして、萼裂片の内面は粗渋で短毛があり、萼筒内側の隆起線は約9本である。この特徴を示すものがカントウカンアオイです。
 ごく一部にカントウカンアオイが出てくるものの少なく、大部分はタマノカンアオイであり、保全されている緑地においては健在です。タイプ標本原産地であると思われる生田緑地において健在であることは、単に種が残っているということとは違う、川崎の宝として、大きな意味を持っているように感じます。

カントウカンアオイの花(10〜11月) タマノカンアオイが自生する雑木林

この文章は、かわきた第242号 2013年1月発行に掲載されたものです。
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