かわきた第248号(2014年4月発行)掲載「川崎の自然をみつめて」
都会にも生息しているアズマヒキガエル

かわさき自然調査団 岩田臣生

 生田緑地の谷戸に私たちが再生した田圃は生き物のために1年を通して湛水しています。このため早春にはアズマヒキガエルの産卵場所になっています。
 アズマヒキガエルは山陰地方、近畿地方以東の本州に自然分布するほか、北海道の函館、室蘭、旭川、伊豆諸島(大島、新島、三宅島)、佐渡島に移入分布しています。棲息環境は、海岸から標高2500mの高山まで、また農耕地、二次林、草原、自然林、都市公園、埋立地など多様な環境に適応しています。国産のカエルの中では大型で、身近な場所に棲息しているため親しまれ、ガマガエルとも呼ばれています。
 環境適応能力の高さは乾燥に強いことによるものでしょうか、繁殖期以外は殆んど水に入ることなく生活しています。このため市街地の中でも見られ、昨年は幸区内の某小学校の裏の小さな水溜りでオタマジャクシに出会いました。そんな所にオタマジャクシがいるとは、先生方は知らなかったのですが、低学年の児童が教えてくれたものでした。生田緑地では、2〜3月が産卵期で、5月にはアズマヒキガエルのオタマジャクシからシュレーゲルアオガエルのオタマジャクシに替わります。この小学校での出会いは7月でしたので、本当に驚きました。
 アズマヒキガエルの生態で最も不思議に感じているのは、産卵の期間が非常に短いことです。経験的には、2日程度なのです。1つの水辺での産卵が、メスが10匹以上いても1日か2日で終わってしまうということは、メスが示し合わせたように同じ日に現れるということです。アズマヒキガエルは、冬眠途中で産卵のために水辺に出てきて、産卵後、また戻って冬眠?を続けるのです。目を覚ます引きがねは何なのか、不思議でなりません。
 アズマヒキガエルは繁殖のために、自分が生まれた池沼に戻ってくるといわれています。そうだとすると一種の血族にあるものたちの間には代々引き継がれている産卵日が刷り込まれているのかも知れません。
 オスはかなり早く出て来て、待っているものもいますが、遅れて来て、卵塊の近くでメスを探しているものもいます。同じ水辺に集まるアズマヒキガエルが何処から来ているかを調べることは困難ですが、産卵後、何処へ移動しているかは調べられます。ある調査では50〜100mの距離が多く、遠いものでは260mというものもあったことが報告されています。
 オタマジャクシは2ヶ月ほどで手足が生えて上陸しますが、この時の体長は1cmほどです。アズマヒキガエルの成熟した個体は12cmはありますから、如何に多くの昆虫、ムカデ、ミミズなどを捕食しているか想像できます。ということは密度高く棲息しているとは思えません。産卵できる水辺が少なくなれば、かなり遠くからもやってくるものがいると思われます。
 市街地にも適応して棲息しているといっても、沢山のアズマヒキガエルが集まり、所謂、蛙合戦が展開されるような水辺は、都市化に伴って減少しています。産卵のために集まって、メスを求めて手当たり次第に抱きついてまわるオスたちの姿は、自然の不思議を感じさせてくれるドラマでもあります。そんな出会いの場所を見つけたら、大切にしてあげていただきたいと思います。  


 アズマヒキガエルが産卵に集まる田圃         田圃の中で蛙合戦を展開するアズマヒキガエル
 包接中のアズマヒキガエル                アズマヒキガエルの卵

この文章は、かわきた第248号 2014年4月発行に掲載されたものです。
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