川崎の野生生物
アキアカネ

Sympetrum frequens 
トンボ目トンボ科アカネ属
 繁殖するのは通常平地または丘陵地、低山地の水田、池沼、溝などであるが、まれに標高2000m代の高所からの羽化記録もある。5月末から6月下旬にかけて夜間に羽化した成虫は、朝になると飛び立って水辺を離れ、1〜2日間草に止まったまま体が十分固まるのを待つ。その後近辺の樹林、植栽木などに集合して群れとなり、4〜5日間を摂餌に費やして様々な小昆虫を空中で捕食し、長距離飛翔に必要なエネルギーの蓄積を行う。
 十分体力がついた個体は単独で、あるいは群れを成して、日中の気温がせいぜい20〜25℃程度の3000mぐらいまでの高標高の高原や山岳地帯へ移動して、7〜8月の盛夏を過ごす。未成熟成虫が水辺を離れて生活するのは他のアカネ属の赤とんぼのみならず、非常に多くのトンボに共通した習性ではあるが、アキアカネの場合この移動が極端に長距離となる。低温時におけるアキアカネの生理的な熱保持能力は高く、活動中の体温は外気温より10〜15℃も上昇するが、高温時の排熱能力は低い。そのため暑さに弱く、気温が30℃を超えると生存が難しくなり、このことが季節的な長距離移動の原因と考えられている。酷暑の年には移動先はより高い標高の地域となり、冷夏の年にはそれほど高いところまでは移動しないことが示唆されている。
夏に高地で摂食を続けている間に、生殖腺などの内部組織が発達、充実し、最終的に体重が2〜3倍に増加する。昆虫などの節足動物は脱皮後に体の大きさは増大するが、それは消化管内にのみこんだ水や空気の圧力で外側の外骨格だけを膨張させているため、しばしば内部はすかすかの状態である。そのため、脱皮後は成長しないように思われがちだが、実は外骨格の膨張に伴っていなかった内部組織の成長が起こる。
 十分成熟した成虫、特に雄は体色がオレンジ色から鮮やかな赤に変化し、通常秋雨前線の通過を契機に大群を成して山を降り、平地や丘陵地、低山地へと移動する。成虫の群れは低地に到着すると雌雄が結合したまま飛びまわり、稲刈りの終わった水田の水溜りのような産卵適所を探索する。このような浅い水溜りを発見すると、近くの草むらや地面で約10分ほど交尾を行い、交尾が終了するとやはり雌雄がつながったまま水面の上に移動する。産卵は水面の上で上下に飛翔しながら雌が水面や水際の泥を腹部先端で繰り返し叩き、その度に数個づつ産み落とす。産卵が終わると雌雄は連結を解き飛び去り、夕方は単独行動を行うが朝になると再び雌雄が連結して生殖活動に移る。成虫は11月まで見られ、中には12月上旬まで生き延びるものもいる。
 卵は水中や湿った泥の中で越冬し、春に水田に水をはる頃になると孵化し、幼虫(ヤゴ)となる。
 アキアカネのヤゴは、体は短いが肢は非常に細長く、クモのような姿をしている。 頭部は横長で複眼は前側方に突出している。終齢幼虫に達した段階のヤゴの体長は17〜20mm、頭幅は6.5〜8mm。 ヤゴは田植え直後の水田に大発生するミジンコなどを活発に捕食して急速に大きくなり、初夏の夜にイネなどによじ登って羽化する。
 神奈川県昆虫誌では、「生田緑地(林,1990; 林・小林,1991; 増渕,1999; 苅部他,2000; 2003」と記録されている。

写真/ 2009/6/6(土) 稲田公園児童プールから救出、岩田臣生撮影
ヤゴは背棘が第4〜8腹節にあり、第8腹節の側棘が第9腹節後端にとどいている。

アキアカネ♂ 2006/9/28 生田緑地にて岩田臣生撮影

アキアカネ♀ 2005/10/1 生田緑地の田圃で岩田臣生撮影

アキアカネ 2011/9/23♂ 生田緑地の田圃で岩田臣生撮影


特定非営利活動法人かわさき自然調査団
Kawasaki Organization for Nature Research and Conservation