生田緑地の谷戸の自然保全活動




勉強会
土壌中のセシウムの挙動と植物への影響について
(セシウムによる土壌汚染対策について)

日時 2012/2/26(日) 13:00〜15:00 曇 9℃
場所 生田緑地公園管理事務所2階
講師 田村憲司・筑波大学大学院生命環境科学研究科 准教授
司会 岩田芳美 特定非営利活動法人かわさき自然調査団 事務局長
参加 (水田ビオトープ班)岩田臣生・班長、小泉恵佑、前田 宏、金子文隆
   (植物班)吉田多美枝・班長、吉留憲子、増田 将、村井正蔵、富樫敬四郎
   (野鳥班)瀧 孔一郎、志村章子
   (昆虫班)雛倉正人
   (地学班)上西登志子
   青木陽二  
   大木悦子(あいかわ自然ネットワーク)
   尾田為人(池の沢に蛍を増やす会)
   小俣軍平(陸生ホタル生態研究会事務局長)
   工藤憲一
   倉本 宣(明治大学教授・生田緑地植生管理協議会会長)
   小泉咲子
   佐久間淳子(立教大学現代社会学科講師)
   杉浦夏彦
   早川広美(あおぞら自然共育舎)
   松岡嘉代子(向ヶ丘遊園の緑を守り、市民いこいの場を求める会)
   山本清幸(飛森谷戸の自然を守る会)
                                    総参加者 27名

昨年3月11日以降、私たちが活動する川崎においてもホットスポットが見つかりましたが、その原因については説明を得られませんでした。
私たちは生田緑地の雑木林や谷戸の水辺、田圃で活動していますが、放射能は大丈夫なのだろうかということを気にしながら活動していました。
川崎市では、生田緑地の落葉溜めを調べて、問題ないとしました。
しかし、全く注意を要しないのだろうか。
そんなことを思いながら、間もなく1年になろうとする1月に、筑波大学の田村准教授から、セシウム汚染対策について話をしてもいいという話を頂戴しました。
願ってもないことでしたので、直ぐにお願いし、この日、勉強会を開催することとなりました。
会場の関係から、広報は消極的に、人数を確認しながら、関心のありそうな人に声をかけて、満席となりました。

講演記録については整理して、後日、ホームページ等に掲載したいと思いますので、当日都合が悪くて参加できなかった人は参照して戴きたいと思います。

筑波大学が文部科学省の緊急プロジェクトに参加し、福島県の高濃度地区のセシウムを測定しており、田村先生も、これに参加していますので、 その最新の知見も含めて、専門分野の土壌環境化学或いは土壌学の立場から、セシウムの土壌中の動きと植物への移行についての話を講演していただきました。

低濃度で安全と言われている川崎・横浜周辺でも、私たちのフィールドでの活動の中には危険を招くような行為もあること、心配していた田圃活動は高濃度の腐葉土などを持ち込まない限り、安全であることなど、基本を勉強することができたと思います。

以下に要点を列記します。

【生田緑地等で活動する立場で受け止めた話の要点】

セシウム137の半減期は30.2年で、元素周期律表ではナトリウム、カリウムなどと同じアルカリ金属に分類され、元素としての挙動に類似性がある。

原子炉から空中に放出された放射性プルームは水と反応性が高く、水に70%以上溶ける。
即ち、イオン態として、雨と一緒に降下して、或いは霧の状態で地表に落ち、植物や落葉の表面に付着し、或いは直接地面に降下する。

元素としてのセシウムは1価の陽イオンとして挙動し、土壌は負の電荷を帯びているため、土壌粒子の表面に吸着する。
土壌に含まれる粘土鉱物の中には、層状ケイ酸塩粘土の層間がセシウムを閉じ込めるのに丁度いい大きさを持つものがあるため、セシウムは、 他の陽イオンに比べ、土壌から離れにくい傾向にある。
粘土質の土壌には強く結びつくので、地下水に溶け込むことはほとんどない。

調査では、土地利用によってセシウムの土壌吸着量には差があった。
土壌中のセシウムは、地表から5cm以内にほぼ100%近く吸着していた。

3月時点で葉を繁らせていたスギ林では、葉に高濃度に吸着していた。
葉は有機物なので、これが分解すると、吸着されていたセシウムが遊離して二次汚染を招く可能性がある。 高濃度地域においては、スギの葉(枯葉を含む)の除染が急務である。

落葉広葉樹林の濃度は常緑樹(スギ)に比べて低く、セシウムは殆ど落葉層にかなりの量が吸着していた。 3月時点では展葉していなかったので、放射性プルームは通過してしまい、葉の吸着量は少量だった。
落葉のリスクが高い。今年の4月以降に展葉した葉の落葉の汚染濃度は低いと思われる。
原発事故時すでに展葉していた葉や常緑広葉樹の葉については汚染している場合もある。
低濃度地域でも、相対的には、落葉はリスクが高い。

落葉かきをして集めて、腐葉土にしてしまうと、濃度は高くなる。
これを焼却して灰にすると、更に濃度は100〜1000倍超に高まる可能性も高い。
低濃度地域においても、草木灰づくりはしてはならない。

土地利用の中では、水田の濃度が一番低かった。
地下水は土壌によって濾過されているため、セシウム汚染の可能性は低い。
水田は中性(pHは7前後)。

黄砂にも核実験によるフォールアウトのセシウムは含まれていて、日本に大陸から飛来する黄砂量も毎年増えている。大陸の草原が砂漠化しているからだそうだ。

土壌−作物間のセシウムの移行は、作物の種類、土壌の性質によって大きく異なる。
土壌に添加されたセシウムは、土壌の粘土鉱物等に強く結合される。従って、土壌に強く吸着されていないセシウム量は時間の経過とともに減少する。

一方、作物は土壌溶液中の養分を主に吸収するので、作物が吸収するセシウム量も、土壌へのセシウム降下後の経過年数とともに減少する。
今年暫定基準値まで出てこなかった農地では、同じ方法で耕作していれば年数の経過とともにリスクはさらに低くなる。 土壌の深いところに移行するには数十年以上かかる。

植物が養分とともに吸収したりするので、土壌中で半減するのは5〜10年といわれている。
放射性セシウムの低濃度地域では土壌中放射性セシウムは、土壌中での半減期の10倍つまり10半減期(50年〜100年)で安心してもよい、 あるいは原発事故前のレベルになる。

低濃度地域で除染するためにヒマワリを植える必要はない。
せっかく満遍なく低濃度なのに、ヒマワリの根に集めて、高濃度にしてしまうリスクを伴う。
根は有機物なので、その根が分解すると、さらに、2次汚染を引き起こす可能性もある。

シルトおよび粘土が多く含まれる土壌は吸着量が高くなっている。 砂質の土壌では吸着量は少ない傾向にある。

粘土質の土壌で育てた稲の玄米は濃度が低くなっている。
水田自体、集積セシウム量が低い傾向にある。
水田の土壌から、玄米、とくに白米に取り込まれるセシウムの量はきわめて少ない。
草原や森林に比べて水田のリスクが一番低い。お米のリスクは極めて低い。
ですから、東日本や東北地域で栽培されたお米でもお米は安心して食べてよいと思われる。

交換性カリウムの多い土壌ほどセシウム の移行率が低い。植物が取り込む量が少ない。
交換性カリウムが少ないと植物の取り込みは多くなる。

土壌がアルカリ性になればなるほど、土壌から植物への移行率は低くなる。

横軸にカルシウム量をとっても同様の傾向が見られる。土壌中の交換性カルシウム量も多い土壌ほど、植物への移行率が低くなる。

IAEAの報告では、栄養塩が豊富で、pH4.8以上の全ての土壌では、穀物への移行率は 0.05、野菜では 0.5 と低い。

低濃度の場合、更にリスクを下げたい場合はロータリーによる深耕が有効。

由来(採取地域など)が不明な腐葉土などは持ち込まないこと。
そのような由来がはっきりしないものを使うぐらいなら化学肥料を使う方がはるかに安全。

作物に移行するのを抑制するためには石灰や貝殻などを施用して、土壌のpHを高くすること。

セシウムは土壌の最表層にある。
これを攪乱したり、触ったりすることは、リスクが高いので、マスクや手袋の着用を推奨する。

土壌の舞い上がりが一番リスクが高い。
農作業に限らず、春先のグラウンドで舞っている土埃などにも含まれているので、風の強い日は全ての人がマスクをした方がいい。 どんなに低濃度であってもそうした方が内部被爆のリスクを低くする。
内部被爆のリスクを低減させるためにはマスクの着用が不可欠。

自分たちでつくったものを出荷するような時は、簡易線量計でいいので、計測してから安心安全であると思われるものを出荷する。

どんなに低濃度の地域でも、高濃度に濃縮するものがある。例えば、キノコ。
キノコは、僅かでもセシウムがあれば、それを10倍〜1000倍に濃縮する可能性がある。

安全な所に危険なものは持ち込まない。

活動している団体、個人がサーベイメーターを団体単位で持つことを推奨。
基準を決めること。基準を超えるものは扱わないこと。
低濃度地域なら全てが安全というわけではなく、濃縮されるものがある。

生産の現場でリスクの高いものは撒かない。

関東地方でも、灰にすることは避けなければいけない。

野生の木の実を食べることについて:
空間線量が0.5を超えるようなところは気をつけた方がいい。
関東地方でもホットスポット的な所があるので、山に入った時には0.5ぐらいになったら比較的高い地域であると見た方がいい。
0.2とか、0.3ぐらいだったら入って、食べても、そんなに心配することはない。

土壌中のセシウムが植物体に移行すると言っても、大部分は根に止まっている。
玄米に出ても、白米に出ないことは普通にある。
玄米でも、稲わらや根に比べて非常に低い。
一番リスクが高いのはキノコだ。

生田緑地の谷戸の自然保全活動のメインページへ

特定非営利活動法人かわさき自然調査団
Kawasaki Organization for Nature Research and Conservation